慢性腎臓病は、さまざまな病気から引き起こされます。代表的なのは、糖尿病、慢性腎炎、高血圧、多発性嚢胞腎です。
これらは慢性腎臓病の原因となる4大疾患とも呼ばれています。
そこで、慢性腎臓病の4大疾患、それぞれの特徴や原因、診断、治療、生活管理についてまとめます。
慢性腎臓病の原因となる4大疾患
慢性腎臓病の原因となる4大疾患は以下の4つです。
- 糖尿病性腎症
- 慢性腎炎(IgA腎症)
- 高血圧性腎硬化症
- 多発性嚢胞腎
糖尿病性腎症
糖尿病性腎症(とうにょうびょうせいじんえん)とは…
糖尿病が原因で引き起こされる慢性腎臓病です。
糖尿病性腎症の特徴
続発性の腎臓病のなかではもっとも多く、透析治療が必要な腎臓病患者の約40%以上が、糖尿病性腎症を患っています。
糖尿病の恐ろしい合併症ともいえ、糖尿病患者の死因の約15%を占めています。
初期には自覚症状がほとんどなく、兆候としては、尿にアルブミンというたんぱく質が含まれるアルブミン尿になることです。
糖尿病性腎症の原因
糖尿病は、糖分の代謝に関わるホルモンであるインスリンの分泌や働きが異常になり、血液中に糖分があふれる病気です。
そのため血管内の血液が高血糖状態になり、全身で動脈硬化が進みます。これは、腎臓でも例外でなく、糸球体の毛細血管の状態が悪くなり、ろ過機能が低下します。
ろ過機能の低下により、まずアルブミン尿、そしてたんぱく尿があらわれ、やがて糸球体硬化、高血圧や浮腫、腎機能低下から腎不全へと進みます。
糖尿病の発症から10年ほどで、腎障害があらわれることが多くなります。
糖尿病のうち、インスリンの分泌や作用の異常から起きる1型糖尿病では約30~35%、食事(過食)や運動不足など生活習慣の乱れが原因で起きる2型糖尿病では約10~40%が、糖尿病性腎症を引き起こしています。
また、糖尿病までいかなくても、糖尿病のリスクである肥満そのものが、糸球体への血流量を増やすため、糖尿病性腎症のリスクともなります。
糖尿病性腎症の診断
糖尿病にかかって5年以上たっている患者さんで、アルブミン尿が認められる場合、糖尿病性腎症を疑います。
ほかに原因疾患となるものがなく、網膜症や神経障害などの糖尿病の合併症症状がある場合は、ほぼ確定です。
ほかの腎臓病の疑いがある場合は、腎生検を行って診断を確定します。
ただし、2型糖尿病ではアルブミン尿やたんぱく尿が認められなくても、腎臓の働きが悪いケースもあります。
糖尿病性腎症の治療・生活管理
radio_button_unchecked治療の基本となるのは、原因である糖尿病を抑えること。つまり、血糖と血圧の管理を重視します。
radio_button_unchecked血糖管理としては、食事療法や運動療法などの生活習慣の改善、体重の管理を行います。
radio_button_uncheckedそれぞれステージによって、目標とする血糖値や注意点などが異なります。
radio_button_uncheckedまた、血糖降下薬やインスリン注射などによる薬物治療も行います。
慢性腎炎(IgA腎症)
慢性腎炎(ませいじんえん)とは…
慢性腎炎は、腎臓の糸球体に炎症があり、血尿・たんぱく尿が1年以上持続する疾患です。その原因が免疫グロブリンA(IgA)の沈着によるものをIgA腎症といいます。
特徴
初期には、通常は無症状ですが、風邪を引いたときに血尿が出ることがあります。
腎臓の糸球体に炎症が起きていることからたんぱく尿や血尿があらわれます。
次第に糸球体は硬くなり、腎機能が低下するに従って高血圧やむくみ、息苦しさなどがあらわれ、最後には腎不全になります。
IgA腎症は、病気の進行はゆっくりですが、発症から20年で、約30~10%の人が透析治療の必要な状態になるとされています。
日本人の慢性腎炎のなかでは発症率が高く、慢性腎炎の約30%を占めています(小児で約20%)。
すべての年代で発症するのですが、比較的若い年齢の人でも発症するのが特徴です。
慢性腎炎の原因
IgA腎症の原因である免疫グロブリンAとは、たんぱく質でできた抗体です。
人体には、体内に入ってきたウイルスや細菌などの異物を排除して身体を守る免疫システムが備わっていますが、その中でも中心的な役割を果たしているのがIgAなどの抗体です。
ところが、免疫複合体が腎臓に沈着してしまい、白血球が免疫複合体を攻撃することで、腎臓に炎症が起きてしまうのです。
慢性腎炎の診断
ほとんどの慢性腎炎(主にIgA腎症)は、健康診断などの検査で、たんぱく尿や血尿が認められることで発見されます。
血液検査を行うと、血清IgAの増加(高値)が認められます。
腎生検で診断を確定しますが、顕微鏡で観察すると、腎臓のメサンギウム領域に異常がみられます。
慢性腎炎の治療・生活管理
治療は、透析治療が必要になるリスク度合いにより、治療法が選択されます。
radio_button_unchecked低リスクの初期段階では、禁煙、減塩、体重の管理などの生活指導と、抗血小板薬、副腎皮質ステロイド薬などによる薬物治療を行います。
運動や妊娠出産に制限はありません。ですが症状が進みリスクが高くなると、運動量の調節や妊娠・出産に注意が必要になります。
radio_button_uncheckedリスクが高くなると、食事でも、たんぱく質や食塩の摂取制限が必要になります。
radio_button_uncheckedさらにリスクが高まると、食事では、たんぱく質、カリウム、食塩に厳しい制限を行います。妊娠出産にも厳重な注意が必要になります。
radio_button_unchecked必要に応じて、口蓋扁桃の摘出手術とステロイドを点滴で与える「ステロイドパルス療法」を組み合わせて行うこともあります。
高血圧性腎硬化症
高血圧性腎硬化症(こうけつあつせいじんこかしょう)とは…
高血圧による腎障害(高血圧性腎硬化症)です。
高血圧性腎硬化症の特徴
高血圧が長い間続くと、全身の血管の状態が悪くなります。これが腎臓でも起き、腎障害を起こすのが、高血圧性腎硬化症です。
高血圧による腎障害には、良性のものと悪性のものがあります。
良性の高血圧性腎硬化症について
特徴
良性のものは、軽度~中等度の高血圧で発症し、自覚症状がほとんどあらわれないために気づかず、腎臓機能が低下している状態です。
高齢者に多く、老化現象として起こることもあります。
診断
診断は、高血圧の人で血清クレアチニン測定を行い、推算糸球体濾過値(eGFR)が60未満の場合に、高血圧による腎障害が疑われます。
超音波検査やCT検査では、腎萎縮が確認できます。
必要に応じて腎生検を行うケースもあります。
治療・生活管理
radio_button_unchecked治療は、血圧のコントロールを行います。
radio_button_unchecked減塩など食事療法を中心に生活習慣の改善を行い、必要に応じて降圧薬による薬物治療も行います。
高血圧による腎障害が起きている場合、腎臓以外にも、全身の動脈硬化も進行していると考えられます。したがって、心筋梗塞や脳卒中などのリスクが高い状態でもあり、軽く考えてよい症状ではありません。
悪性の高血圧性腎硬化症について
特徴
悪性のものは、拡張期血圧が130mmHG以上の高血圧が持続することで発症するものです。
若い年代に発症し、とくに30~40歳代の男性に多くみられます。悪性腎硬化症とも呼ばれます。
急速に腎臓機能が悪化するのが特徴で、激しい頭痛や視力低下、全身の倦怠感、嘔吐、貧血、心不全などの自覚症状が起こります。
診断
眼底に、網膜の乳頭部がむくむ「鬱血乳頭」や出血、白斑などが観察されます。
たんぱく尿や血尿もあらわれます。
悪性の場合、症状が急激に悪化するため、放置していると短期間で腎不全まで進んでしまう危険性があります。また脳や心臓に重篤な障害が起こることもあります。
治療・生活管理
radio_button_unchecked治療は、降圧薬による薬物療法や食事療法などで、できるだけはやく血圧を適正値に戻します。
すみやかに血圧のコントロールが行われた場合は、腎機能が低下しないこともありますが、透析治療が必要になることも少なくありません。
多発性嚢胞腎
慢性腎臓病の原因となる4大疾患の最後の4つ目は多発性嚢胞腎です。
多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん)とは…
多発性嚢胞腎(PCKD)は、両方の腎臓に水分がつまった袋「嚢胞」がたくさんでき、正常な腎組織を圧迫することで、腎機能が低下する病気です。
原因は、尿細管の太さを調節するPKD遺伝子の異常です。
多発性嚢胞腎の特徴
出生前から新生児期に発症する「常染色体劣性多発性嚢胞腎(ARPKD)」と、40歳前後で発症することの多い「常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)」があります。
常染色体劣性多発性嚢胞腎(ARPKD)
常染色体劣性多発性嚢胞腎は、1万~4万人に1人の割合で発症します。
重い腎不全を起こし、肺など呼吸器が十分に形成されず、呼吸不全を起こすこともあります。
根本的に治療は確立されてなく、この病気の個々の症例に応じて、透析治療や腎移植などの対処療法を行います。
常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)
常染色体優性多発性嚢胞腎は、3000~7000人に1人の割合で発症します。
家族歴のある40歳前後の成人の多くに嚢胞が確認されます。
両親のどちらかがこの病気であると、子どもがかかる確率は50%と推測されています。
若いころは無症状なことが多いため、病気に気づきにくく、年齢を重ねるごとに腎嚢胞に出血を起こしたり、感染症を起こしたりすることで発見されます。
発症すると、約10~15年後には透析治療が必要となり、65~69歳で約50%が末期腎不全になるとされています。
多発性嚢胞腎の症状
多発性嚢胞腎の症状としては、血尿や腰痛、嚢胞のなかの出血による腹痛、おなかの張りなどがあります。
半数以上の患者さんには、高血圧もあらわれます。
多発性嚢胞腎になると、尿路感染症や尿路結石を起こしやすくなります。肝嚢胞や膵嚢胞、くも膜下出血を引き起こす脳動脈瘤などの深刻な病気を合併することもあります。
多発性嚢胞腎の診断
診断は、血縁者の病気の状況を考慮に入れて、超音波検査やCT検査、MRI検査などを行って、腎臓内にある多数の展胞や腎臓の腫大を確認します。
また健診などで、高血圧を指摘され、同様の検査から判明するケースもあります。
多発性嚢胞腎の治療・生活管理
radio_button_unchecked多発性嚢胞腎の治療は、一般的には他の腎臓病と同様に、薬物治療や食事療法などによる血圧のコントロールを中心に行い、いかに腎機能を維持するかを考えます。
radio_button_unchecked薬物療法では、従来どおりの薬による血圧コントロールに加え、近年使用可能となったバソプレシン拮抗薬で、襄胞が大きくなることを抑えたり、腎機能の低下を遅らせたりします。
まとめ
慢性腎臓病の原因となる4大疾患について、最後にもう一度まとめます。
慢性腎臓病の原因となる4大疾患は以下の4つです。
1:糖尿病性腎症
糖尿病が原因で引き起こされる慢性腎臓病です。
2:慢性腎炎(IgA腎症)
腎臓の糸球体に炎症があり、血尿・たんぱく尿が1年以上持続する疾患です。
3:高血圧性腎硬化症
高血圧による腎障害(高血圧性腎硬化症)です。
4:多発性嚢胞腎
両方の腎臓に水分がつまった袋「嚢胞」がたくさんでき、正常な腎組織を圧迫することで、腎機能が低下する病気です。
人工透析になってしまうと、は2~3日に1回の通院が必要で、1回の治療に4時間前後かかるなど、患者さんには大きな負担となります。
そうならないためにも、治療の基本である薬物療法以外にも、日常の食生活で腎臓に負担をかけないようにすることが大切です。
参考資料