肺炎は、日本人の死因の第3位。しかも、そのほとんどを65歳以上の高齢者が占めています。肺炎にはさまざまなタイプがありますが、高齢者に多いのが「誤嚥性肺炎」です。
誤嚥性肺炎は、食べ物や飲み物など、本来気管に入るべきではないものが誤って入り込み感染を起こします。
ですが、何も食べていなくても、唾液だけでこの誤嚥性肺炎を引き起こすケースもあります。
健康な若い人であれば、誤嚥しそうになったとしても咳をして吐き出すことができますし、細菌が入ってきたとしても感染は起こりにくいのですが、のみ込む力や体の抵抗力が低下している高齢者や寝たきりの人は、誤蕪性肺炎にかかりやすくなります。
そこで今回は、なぜ唾液で肺炎になるのか、その原因と、唾液による誤嚥性肺炎を予防する方法についてわかりやすく説明していきたいと思います。
唾液だけで誤嚥性肺炎になる理由
高齢者は細菌などの感染によって発熱するケースが多く、炎症が気道に及ぶと肺炎につながります。
そして、口の中の細菌の数が多いほど感染のリスクは高まってしまいます。
特に寝ているときは口の中の細菌が多くなります。その唾液を誤嚥してしまうと、唾液の中の細菌によって誤嚥性肺炎を引き起こしてしまいます。
唾液による誤嚥性肺炎を予防する方法
唾液の誤嚥そのものを防ぐのは非常に難しいですが、口腔内を清潔に保つことで、口腔内の細菌を減少させ、誤嚥性肺炎を予防することができます。
介護施設ではこの唾液による誤嚥性肺炎を予防するために、徹底的に口腔ケアを行います。
口腔ケアの効果を実証した例
実際に口腔ケアの効果は数々の研究により実証されています。その中の一部を紹介します。
口腔ケアをしたら肺炎発症者が減少
出展:米山歯科クリニック院長歯科医師 米山武義 『認知症が気になりだしたら歯科にもいこうはなぜ?』
静岡で開業した米山医師。地元の特別養護老人ホームで入所者の歯科治療を始めました。
そのホームでは年間20人ほどの入所者が肺炎で亡くなっていましたが、その3〜4割は肺炎が原因でした。
そのホームで歯が残っている人は半数くらい。残っていても歯石だらけ、ブラッシングなどの毎日のケアも不十分で入れ歯はつけっぱなし。
虫歯や歯周病が進行して歯ぐきからは膿や血が出て悪臭が漂うそんな惨憺たる状況でした。
そこで月2回、歯科訪問診療をして口腔ケアをし、さらに施設の介護スタッフに協力を呼びかけ、毎日ブラッシングに取り組んでもらうようにしました。
ケアを始めてしばらくすると効果があらわれました。
入所者から「噛めるようになって食事を心待ちにするようになった」「口の中がすっきりして気持ちがいい」といった感想が聞かれました。
また介護スタッフからも「食事の摂取量が増えた」「口臭が減って積極的に話す人が多くなった」という報告が次々に届くようになったのです。
さらに嬉しいことに「熱を出す人が減る」という、想定していなかった成果もついてきました。
口腔ケアに取り組むようになると熱を出す人が減り、それにともなって肺炎による死亡者も激減したのです。
大学との共同究で口腔ケアの効果を実証
出展:東北大学と米山医師の共同研究
東北大学と共同で、1995年から2年間にわたり全国1ヵ所の特別養護老人ホームで口腔ケアの効果を調べる研究を行いました。
入所者を二つのグループに分けました。
一方は毎食後に介護職員が歯ブラシによるブラッシングとともに週に1回歯科衛生士による専門的な口腔衛生管理を実施。
もう一方のグループは従来通りとし、付加的な口腔ケアをしない状態
この2つのグループを比較しました。
効果は歴然で、口腔ケアをしたグループでは、従来通りのグループと比較すると発熱する人が半減し、肺炎発症者も4割減少しました。
さらに肺炎にかかった場合でも重症化が抑えられ、肺炎による死亡率は従来通りのグループは16%だったのに対し、口腔ケアをしたグループは7%に。
死亡率が低下することも実証されました。『認知症が気になりだしたら歯科にもいこうはなぜ?』
口腔ケアをしたグループの結果
- 発熱する人が半減
- 肺炎発症者が4割減少
- 肺炎の重症化が抑えられた
- 肺炎による死亡率が低下した
さらに嬉しいことに、口腔ケアは、認知症の進行を防止する効果もありました。
次で説明します。
口腔ケアは認知症の進行防止にも効果
この大学との共同研究では、口腔ケアが認知機能にもいい影響を及ぼすことが示されました。
研究を始める前と終了後の認知機能の指標(MMSE)の数値を比較したところ、口腔ケアをしたグループのほうが、数値の低下が明らかに抑えられていました。
入所者のことを日々見ている現場のスタッフからも、認知症の方が口腔ケアを受けるようになって「表情が明るくなった」「言葉かけに反応してくれる」「よく話すようになった」「食事に関心を示すようになった」という報告が数多く寄せられました。『認知症が気になりだしたら歯科にもいこうはなぜ?』
歯周病と認知症は関連性が高い
歯周病菌が産生する毒素が血流に拡散し、血管の損傷を引き起こします。そこから神経細胞障害が生じることで、アルツハイマー病の症状を増悪させうると考えられています。
まとめ
最後にもう一度簡単にまとめます。
- 唾液で肺炎になる理由は口腔内に含まれる細菌を誤嚥してしまい、誤嚥性肺炎を引き起こすため。
- 唾液による誤嚥性肺炎を効果的に予防する方法はこまめな口腔ケアを行い、口腔内を清潔にしておく。
- 口腔細菌が減ると発熱や肺炎の予防にななる。また、死亡率の低下も実証されている。
- 口腔ケアは認知症の進行防ぐ効果も認めらている。
-
嚥下障害を絶対に放置しないでください!嚥下訓練体操の重要性
年齢とともに嚥下機能は低下します。 (※嚥下機能…食べ物などを飲み込むためのプロセス) そのまま老化を加速させていくと、食べ物がうまく食道へ送られず気管の方へ入っていくことが多くなります ...
続きを見る